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8年分の帳簿を AI に1日で読ませた — 事業の構造が数字で見えた

2026-06-11 / 第22号 / 公開時点では下書き

第11号で「月次決算が "確認するだけ" になっていた」と書いた。あれは 毎月の帳簿を入れる側 の話。今回はその続きで、溜まった帳簿を読む側 の話。

きっかけは素朴な問いだった。
「創業(2019年)から、この事業は何で成り立ってきたのか。構造で言えるか?」
毎月の入力はできている。月次決算も自動で締まる。それなのに、この問いには即答できなかった。


材料は全部あった。読んでいなかっただけ

月次自動化の副産物で、会計ソフトの年次レポート(残高推移表)が 2019〜2026 年の 8 年分、所定のフォルダに揃っていた。貸借対照表と損益計算書、損益には月次の列もある。
つまり 材料は最初から全部あった。横に並べて読む作業を、していなかっただけ。

これをまとめて AI(Claude)に読ませて、1 日で多角的に分析した。年次推移、チャネル別、商品別、損益分岐点。うちは数千万円規模のひとり EC だが、その「中身」を構造で言えるようになるまでに、かかったのは 1 日だった。

Power Query 派でも、1日では無理だった

第11号で告白したとおり、私は Power Query とピボットテーブルで CSV を捌くのにはそこそこ自信がある側の人間。
それでも、8 年分 × 複数の切り口 を 1 日で出すのは無理だった。年次推移を出すクエリ、チャネル別に割るクエリ、商品別の利益単価を出すクエリ、そして損益分岐点の計算。切り口が変わるたびにクエリを組み直す作業が積み上がる。たぶん週末がいくつか溶ける。だから 8 年間、やらなかった。

AI との分析は手触りが違った。1 つの集計が終わると、「次はこの切り口で見ますか」と向こうから提案が来る。年次推移を見たら「チャネル別に割ってみましょう」。チャネルを見たら「商品別の利益単価はどうですか」。商品を見たら「損益分岐点が計算できます」。
私がやるのは、掘る方向の採否と、出てきた数字の検算だけ。掘る作業そのもののコストは、ほぼゼロになっていた。

見えた構造は 4 つ

細かい数字は、ここではぼかして書く(構造が主題なので)。

#見えた構造
1販売数量の大半が、利益の薄い消耗品(カミソリ替刃)
2事業全体の限界利益率は薄く、損益分岐点となる売上高が計算で出た
3チャネルによって手数料構造が大きく違い、どこで売るかが利益率を左右する
4売上以外の収益も、利益構造のひとつのピースになっていた

① 数量の大半が薄利商品。出荷の大半はカミソリの替刃で、1 個あたりの利益はかなり薄い。利益率の高い商品も扱っているのに、数量ではほとんど存在感がなかった。「この事業は何で成り立っているか」の答えの半分は、これだった。

② 損益分岐点が初めて数字になった。事業全体の限界利益率と固定費から、損益分岐点となる売上高が一本の式で出た。自分の事業の損益分岐点を、創業 8 年目にして初めて数字として見た

③ チャネルで手数料構造が違う。同じ商品を売っても、モールによって手数料率は大きく違い、限界利益率にははっきり差がつく。「何を売るか」と同じくらい「どこで売るか」が利益率を決めていた。

④ 売上以外の収益も構造の一部。帳簿上は雑収入に分類される収益が、物販の薄い利益を支えるピースになっていた。感覚では「おまけ」扱いだったものが、構造上は思っていたより大きかった。

「なんとなく」が数字で確定する体験

4 つとも、正直に言えば「なんとなく分かっていた」ことだった。薄利のカミソリで回っていることも、手数料の重いチャネルがあることも、感覚としては知っていた。
でも、感覚と、数字での確定は別物 だった。

感覚のままだと、打ち手は「なんとなく不安だから、何かやる」になる。数字で確定すると、優先順位が立つ。この利益構造なら、効くのは 利益率の高い商品へのシフトチャネル構成の見直し。逆に、固定費を細かく削っても構造は変わらない、ということも比率から言える。
まだ方向性のレベルではあるけれど、「どれから考えるか」が決まったのは大きい。感覚の答え合わせができて、初めて次の一手が選べる。

前提:AI の集計は一度間違える

大事な前提をひとつ、正直に書いておく。第11号で書いたとおり、AI の集計は一度は間違える前提 で進めた。

今回も、答えを検算できる形を最初に作った。年次の売上と利益は会計ソフトのレポートで「正解」が確定しているので、AI の集計がまずその既知の値と一致するかを突き合わせる。一致を確認してから、その先の切り口(チャネル別・商品別)に進む。
正解を握った状態で任せれば、AI 集計は強力な下書き生成機になる——第11号の結論は、8 年分のスケールでもそのまま通用した。

学び:帳簿は、並べて初めて「構造」になる

毎月帳簿をつける。月次決算を締める。それ自体は 8 年間ずっとできていた。でもそれは 「記録」 であって、「構造」 ではなかった。

記録は毎月できていた。構造は、横に 8 年並べて初めて見えた。
変わったのは帳簿ではなく、「並べる作業」のコストがほぼゼロになったこと。

同じように、毎月の記録だけが静かに溜まっている人は多いと思う。材料はもう手元にあるかもしれない。並べるための週末が惜しくて読んでいないだけなら——その障壁は、もうほとんど消えている。