2台の PC を同じ環境にした — 記憶の次は道具を揃える
2026-06-11 / 第23号 / 公開時点では下書き
第9号で「AI の記憶を複数の PC で共有した」話を書いた。どの PC で立ち上げても、AI が同じ記憶を持って起動する。あれで「PC を替えると相棒が初対面に戻る」問題は解消した。
ただ、記憶が揃っても 道具はバラバラのまま だった。ここで言う道具とは、コマンドラインツールのこと。画像を加工する、PDF をテキストにする、大量のファイルから一瞬で検索する — そういう小さな実行ファイルの有無が、PC ごとに違っていた。結果、「あっちの PC ならできるのに」が度々起きていた。
「あっちの PC ならできるのに」
具体的にはこういうことが起きる。1台目には PDF を画像に変換するツールが入っているので、AI はスキャンされた PDF をさらっと読んでくれる。ところが 2台目で同じことを頼むと、ツールがない。AI は諦めずに、Windows の内部機能を呼び出す回り道のスクリプトを組み始める。動くことは動く。ただ、遅いし、手順が長いぶん、たまにコケる。
記憶は共有しているから、AI 自身は「本来のツールがあればもっと簡単」と知っている。知っているのに、その席にその道具がない。人間の職場でいえば、ベテランが出先の事務所で「いつものドライバーがあれば 5 分で終わるのに」とぼやいている状態に近い。
2台目に、同じ構成を一括導入した
6月の頭、1台目で使うツールが一通り固まったタイミングで、2台目(こちらも Dell のノート)に同一構成をまとめて入れた。中身はこんなラインアップ:
・Node.js(LTS) — 運営している 3 サイトの CSS ビルドなど
・ImageMagick — 画像の変換・合成
・poppler — PDF を画像やテキストに変換
・ripgrep / fd / fzf — 高速検索まわり
・jq — JSON の整形・抽出
・7-Zip — 圧縮・解凍
・delta — git の差分表示を見やすく
・uv — Python の実行環境管理
全部で十数本。導入は Windows 標準のパッケージマネージャ(winget)で、AI がまとめて実行した。私がやったのは、途中で出る承認ダイアログを押すことぐらい。終わると AI がバージョンを一本ずつ確認して、「2台の環境が一致した」と報告してきた。
手順書は書いていない。記録がメモリにある
ここがこの話のいちばんのポイントだと思っている。
普通、複数台の環境を揃えようと思ったら「セットアップ手順書」を書く。何をどの順番で入れるか、設定はどうするか。そして手順書は、書いた瞬間から古び始める。ツールを 1 本足すたびに手順書も直す — はずが、直さないまま実態とズレていくのが世の常だ。
今回は手順書を書いていない。代わりに、「何を入れたか」のリスト自体が AI のメモリに記録されている。1台目に入れたとき、AI が自分のメモリに「このツールをこの方法で入れた、設定はこうした」と書き残していた。2台目を揃えるときは、AI がそのメモリを読んで、同じことをもう一度やっただけ。ツールが増えればメモリも更新される。
つまり、次の 1 台が来ても同じ構成を再現できる。記録=メモリが手順書で、しかも使うたびに最新化される手順書。第9号で記憶を共有したときの仕組みが、そのままセットアップの再現装置としても働いた格好だ。
道具が揃うと、頼み方が変わる
環境を揃えてから 1 週間ほど経つが、効果としていちばん大きかったのは、作業が速くなったことよりも AI への頼み方が変わった ことだった。
以前は、頼む側の頭のどこかに「この PC には〇〇がないから、この頼み方だと遠回りになるな」という考慮が残っていた。考慮といえば聞こえはいいが、要するに環境の差分を人間が覚えて吸収していた。それが消えた。どの席に座っても同じ相棒、同じ頼み方。「このPCには〇〇がないから別の方法で」という前置きが、会話から消えた。
副産物もあった。それまで間に合わせの方法でやっていた処理 — PDF をいったん画像化して読む、画像に QR コードを合成する、といった類い — が、本来のツールに置き換わって、速く確実になった。間に合わせの手法はメモリに「もう不要」と追記されて、静かに引退した。
正直な留保:揃えたのは 2 台だけ
全台には展開していない。手元には他にも PC があるが、揃えたのは日常的に使う 2 台だけ。使わない PC に道具を配っても、ただの在庫になる。増やすのは必要が出てから — これも第9号のときと同じ判断にした。記憶も道具も、揃える範囲は「実際に座る席」までで十分だと思っている。