経営ダッシュボードを1日で建てた — Power BI 無料ライセンスで経営をスマホに入れる
2026-06-11 / 第13号 / 公開時点では下書き
第12号で「月次決算、2回目で "型" になった」と書いた。今号は同じ週のもう一つの作業ログ。経営ダッシュボードを1日(2026-06-10)で建てた。朝の時点では何もなく、夜にはスマホで経営の数字が見えるようになっていた。
動機:経営の数字が、見たいときに見えない
欲しかったものはシンプルで、スマホで経営の数字を見たい。月次決算は型になったが、その結果は会計ソフトの中にあって、見るには PC の前に座る必要がある。出先で「今月どうだっけ」と思っても見えない。ついでに、在庫や仕入れのメモも出先でその場で記録したい。帰ってから入力しようと思ったものは、だいたい消える。
条件はもう一つ。追加費用ゼロ。Microsoft 365 は既に契約しているので、その範囲でやる。BI ツールの有料プランは契約しない。
1日でできた構成
役割は4つに分けた:
| 役割 | 使ったもの | 中身 |
|---|---|---|
| データ | PowerShell スクリプト | 会計ソフト(弥生)のエクスポートを直接解析して CSV 化。既知数値の組込検証つき |
| 閲覧 | Power BI 無料ライセンス+モバイルアプリ | マイワークスペースに発行 → スマホで4ページ閲覧 |
| 入力 | Microsoft Lists 12本 | 在庫・仕入・タイムログ・経費メモなどの台帳。REST API で一括作成 |
| タスク | Google ToDo | 単発タスクはここ。Lists はあくまでデータ台帳で、タスク管理を混ぜない |
いちばん大事にしたのはデータの部分。スクリプトが会計ソフトのエクスポートを直接解析して CSV にするのだが、そこに既知数値の組込検証を入れた。過去の確定値を何件かスクリプトに埋め込んであり、解析結果がそれと一致しないとエラーで止まる。集計し直すたびに「答えの分かっている数字」と突き合わせる、第11号で書いた安全装置の考え方をそのままパイプラインに焼き込んだ形。
入力側の Microsoft Lists は、画面からポチポチ作らず REST API で12本を一括作成した。列の型・選択肢・既定値・必須までコードから流し込んである。手作業で12本作っていたら、それだけで日が暮れていたと思う。
モデルは100%コードで管理する
Power BI のモデル(テーブル定義・メジャー・リレーション)は TMDL というテキスト形式で、レポートごと PBIP プロジェクトとして保存した。つまり全部ただのテキストファイル。メジャー約40本・4ページ(過去・今・販売・未来)・ビジュアル29個+モバイルレイアウトまで、すべてコードとして差分が追える。
GUI でマウス操作を積み重ねる作り方だと、後から「何をどう変えたか」が分からなくなるし、AI に手伝ってもらうこともできない。テキストなら、変更はレビューできるし、壊れたら戻せるし、AI との共同作業が成立する。1日で建てられた最大の理由はたぶんここ。
ハマったこと(2件、正直に)
1件目:PBIP がそもそも開けない。Power BI Desktop が「Method not found」系のエラーを吐いて、プロジェクトが開けない。調べていくと原因は Power BI ではなく、PC メーカー(Dell)のサポートツールがシステム共有領域(GAC)に入れていた古いライブラリ(Newtonsoft.Json)だった。Power BI の新しい版は新しい API を使うので、古い方が先に読まれると衝突する。共有領域のライブラリを更新して解決した。検索してもまず出てこない種類のハマり方で、AI と一緒にエラーを掘らなかったら1日では抜けられなかったと思う。
2件目:無料ライセンスのクラウド自動更新。クラウド側に毎日自動でデータを読み込ませようとすると、ローカルのファイルを読む構成ではゲートウェイという仕組みが必要になる。回避策を試したら、今度はパラメータ化したパスが「動的データソース」と判定されて更新がブロックされた。粘る選択肢もあったが、「月次は Desktop で更新して手動で再発行する」というローテク運用に割り切った。月1回・数分の手作業と、認証まわりの試行錯誤を天秤にかけて、手作業が勝った。自動化が目的ではなく、数字が見えることが目的なので。
「ダッシュボード作り込み」はやらないことリストに入っていた
正直に書く。このサイトの運営方針には「KPI ダッシュボードの作り込みはやらない」と明記してある。立ち上げ時の私が、形から入って数字いじりに逃げるのを防ぐために書いた項目だ。それを今回、思いきり作った。
言い訳はできる。あれは「書くことから逃げてダッシュボードをいじる」ことへの戒めであって、今回は事業全体の経営判断のための道具だ、とか。でも本質はたぶん、必要が方針に勝った、それだけだと思う。月次決算が型になり、数字が毎月自動で積み上がるようになった瞬間、「見る場所がない」ことが一番のボトルネックに変わった。方針を書いた1ヶ月前は、そうではなかった。
状況が変わったら方針を更新する。このサイトの3原則の3つ目は「過去の自分を否定する勇気」なので、否定したこと自体をこうして記事にしておく。
学び:BI ツールは「作る」が本体ではなかった
1日やってみて一番意外だったのは、時間の使いどころ。ビジュアルを並べる作業は全体のごく一部で、大半は「どのファイルを数字の正本とするか」「どう検証するか」を決めることに使った。
データの正本とパイプラインさえ決まれば、グラフは後からいくらでも差し替えられる。逆にそこが曖昧なまま見た目から作ると、「この数字、合ってるんだっけ」と毎回不安になるダッシュボードができあがる。
検証を組み込んだ効果は、実は精神的なものが大きい。数字が合わないときは、必ずどこかが本当にズレていると言い切れる。ダッシュボード自体を疑わなくていい。疑う対象が一段減るだけで、数字を毎日見る習慣はぐっと続けやすくなる。
夜にはスマホの Power BI アプリで4ページが見えるようになっていた。構想から本稼働まで1日。Microsoft 365 を契約している一人事業なら、おそらく再現性のある構成だと思う。